・査定方法
どんな商売にも舞台裏があり、企業秘密があり、楽屋話があります。
(この前段は読み飛ばして、次項「古本屋を嫌がらせる10の方法」だけを読むのがてっとり早いかと思います。)
歴史の古い古書業界では旧態依然の部分も多く、特に売値と仕入れ値については、お客様からすればブラックボックス同然かと思います。
古本屋の立場からしても、同業他店の売り買いについては、どれだけ懇意にしている店でも謎が多いものです。
特にお客様と古書店の相対取引については、査定方法等もその店によりけりで、日々同業同士の情報交換はするものの、結局のところ「よそはよそ、うちはうち」という感じでしょうか。
例えば我が梁山泊では、一冊一冊の値段を足していって、その総額プラス端数を切り上げた総額をお支払いする、という方法をとっているのですが、これは業界内ではむしろ少数派の様で、本の全体を見て総額を一気に割り出す、という方が主流といった感じです。
これはちょっと聞くと雑なやり方にも感じますが、業者市に於いて一般書はおおむね紐で括られた形で出品・陳列される為、それをいちいちほどいて一冊一冊見る等といったことは出来ないので、全体を俯瞰して総額を算出する能力は必須なのです。
とはいえ、やはり一冊一冊計算する能力も別途必要で、「値踏み」という言葉通り、一冊一冊値を踏んでいって弾き出した値段が一番正確であると私は思います。(もちろん査定する人間の能力や感覚に左右されますが)
業者市でよくある話題に、
「一冊一冊(値を)踏んでいったら、ものすごい額になる」
「一見すごく高く落札されてるけど、数が多いから一冊一冊踏んでいけば割安だ」
などと言ったものがあります。
つまり、大抵の場合、一冊一冊計算した方が総額が高くなるものなのです。
昔、修行の一環で、父(梁山泊初代)の買取りについて行っていた頃、
「ひとつひとつ真面目に踏んでいくやり方しか出来ないから、いつも割高で買ってしまう。みんなもっと安く買ってるんだろうな」
とよくこぼしていました。
その頃は、「親父は馬鹿正直に買って損ばかりして、商売が下手やな」
と思ったものですが、私もそのやり方しか見ていないので、結局それを受け継いでいます。
・古本屋を嫌がらせる10の方法
さて、自分の店が誠実である、ということがこの文章の主題ではありません。
本を高く売るにはどうしたらいいのか。
どんな場面でも変わらぬ評価をしよう、とは思っていますが、やはり査定するこちらも人間。
なんとなくその場の空気で割高に買い取ってしまい、帰りの車で落ち込む様なことが稀にあります。
お客様からすれば、そういった空気を作り出せば、少しでも査定アップになるかもしれないのです。
はっきり言ってこんなことバラしたくないですが。
まず、
1・本屋が査定中、常にそばに張り付いている。
これは買取りあるあるなのですが、ずっと真横で監視されていると、やはり本屋側も緊張します。人間緊張すると失敗するものです。
「古本屋の失敗=高く買い過ぎてしまう」
なので、お客側にとってはメリットと言えます。
2・一冊一冊、査定額を尋ねる
上記の通り、一冊ずつ値段を足していくと、グロスで査定するより高くなるものです。
それをブラックボックス化するために、本屋側は一点一点の値段を公表したくないと思っているので、そこを付く方法です。
3・「この本を読んだことがありますか?」と尋ねる
身も蓋も無い言い方をしてしまえば、大多数の本屋が相場は知っていても、読んではいません。
かくいう私も恥ずかしながら不勉強な為、こう聞かれると言葉に窮することがほとんどです。
これもやはり緊張を生む為、査定が高くなる可能性があります。
4・商談が終わるまで苦虫を噛み潰した様な顔をしている
本屋に「高い値段を告げないと怒り出すんじゃないだろうか」と思わせれば成功です。
5・本に費やした金額をさりげなく伝える
新刊書店で定価で買っていたり、今も昔も相場が高い本がある場合に有効です。
安く買い叩いてやろう、という業者の場合も、購入時の値段を加味した査定額を考え始めます。
6・「安く売るくらいなら持っておく」と宣言する
「いくらでもいいから持っていって下さい」などとは口が裂けても言わないこと。
7・自分にとって都合の悪い話に相槌を打たない
口八丁手八丁で、どうにか安く買おうとするやり方は確かにあります。
嘘をつく業者は下の下ですが、やり手の本屋は本の山から今安い本だけをピックアップして安い理由をもっともらしく話してきます。真っ向から否定するより、無視するのが一番効果的です。
8・金銭にシビアなパートナーをそばにおく
本の持ち主であるご主人と話がまとまっているのに、奥様との交渉が難航する、といったケースもよくあります。
交渉は嫌い、気が弱い、という人は強面の友達や、奥さんに鬼嫁を演じてもらって、睨みをきかしてもらいましょう。
9・「この本を高く買ってもらえるなら、他にも見てほしい本がある」と言う
次があるなら繋げたい、と思うのが人情です。小出し小出しにするという古典的・常套手段。
査定額を聞くまでは次の場所へ移らないことがポイント。
10・総額の計算中に時間を尋ねる
時そば戦法です。
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いずれも、売りたい・買いたい、という双方の利害が一致している場合に有効な方法ですが、古本屋にはビジネスチャンスに敏感なタイプと、面倒なことをするくらいなら金などいらんというタイプがいるので、へそを曲げて帰る業者もいるかもしれません。その場合の責任はもてません。
個人的にも上記を全部やられるとなかなか厳しいものがありますが・・・
あくまで何かの参考とお考え下さい。